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東京地方裁判所 昭和57年(特わ)4329号 判決

本店所在地

東京都八王子市中野山王二丁目六番一一号

有限会社吾妻商会

(右代表者取締役佐藤光雄)

本籍

東京都八王子市中野上町一丁目七五五番地

住居

東京都八王子市中野上町二丁目六番一一号

会社役員

佐藤光雄

昭和一七年五月一五日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官五十嵐紀男出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人有限会社吾妻商会を罰金一、二〇〇万円に、被告人佐藤光雄を懲役一年に、それぞれ処する。

被告人佐藤光雄に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人有限会社吾妻商会(以下「被告会社」という。)は、東京都八王子市中野山王二丁目六番一一号(昭和五五年二月二九日以前は、東京都八王子市中野上町一丁目八番一七号)に本店を置き、屋内外娯楽機械及び各種自動販売機販売、リース等を目的とする資本金一〇〇万円の有限会社であり、被告人佐藤光雄は、被告会社の取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人佐藤は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿したうえ、昭和五四年三月一日から昭和五五年二月二九日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億三、九九二万四、九四二円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五五年四月三〇日、東京都八王子市子安町四丁目四番九号所在の所轄八王子税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一、五八一万二、三六一円でこれに対する法人税額が五四五万七、〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五八年押第三五八号の1)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額五、五〇九万八、六〇〇円(別紙(二)税額計算書参照)と右申告税額との差額四、九六四万一、六〇〇円を免れたものである。

(証拠の標目)

一  被告人佐藤の当公判廷における供述

一  被告人佐藤の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏の被告人佐藤に対する各質問てん末書

一  和田藤七郎、塚本修吾、牧田喜一、川上養吉、佐藤力及び佐藤暁子の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏の平松子之吉、河鍋三男、倉田要、秋坂康彦及び佐藤暁子に対する各質問てん末書

一  収税官吏作成の売上、売上値引返品高、当期仕入高、雑給、運賃、支払手数料、交際接待費、価格変動準備金、簿外預金・受取利息・過払源泉税に関する各調査書

一  検察事務官作成の被告会社の雑費に関する捜査報告書

一  八王子税務署長作成の証明書

一  東京法務局八王子支局登記官作成の登記簿謄本及び閉鎖登記簿謄本

一  押収してある法人税確定申告書一袋(昭和五八年押第三五八号の1)

(法令の適用)

被告人佐藤の判示所為は、行為時においては昭和五六年法律第五四号脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律による改正前の法人税法一五九条一項に、裁判時においては改正後の法人税法一五九条一項に該当するが、犯罪後の法令により刑の変更があったときにあたるから、刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑によることとし、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で同被告人を懲役一年に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

更に、被告人佐藤の判示所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については右昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一六四条一項により判示の罪につき同じく改正前の法人税法一五九条一項の罰金刑に処せられるべきところ、情状により同条二項を適用し、その金額の範囲内で被告会社を罰金一、二〇〇万円に処することとする。

(量刑の事情)

本件は、インベーダーゲームなどのゲーム機器の販売等を業とする被告会社の代表者である被告人佐藤が、被告会社の業務に関し、一億二、四〇〇万円余の所得を秘匿し、四、九〇〇万円余の法人税を免れたという事案であり、右金額はいずれも高額であって、その所得秘匿率は約八八パーセント、税ほ脱率は約九〇パーセントに及んでいる。被告人佐藤は、本件犯行の動機として、被告会社で取り扱うゲーム機器は流行産業で、いつ流行が下火となるかもしれず、それに備えて利益を会社内部に蓄積しておきたかった旨述べるが、これをもって本件脱税を正当化することはできず、その他特に斟酌すべき動機も見い出せない。また、本件犯行の手段方法は、ダミー会社に仕入れを起こすなどして売上げを除外したものであって、巧妙である。更に、被告人佐藤は、昭和五四年六月に同年二月期の被告会社の脱税を指摘され、税務調査を受けていながら、なお、翌昭和五五年二月期について本件犯行に及んだものであって、その犯情は悪質であり、本件刑事責任は決して軽いとはいえないのである。

しかし、他方、脱税額が判示の額に至ったのは、昭和五三年暮からのインベーダーゲームの大流行によるものと認められ、必ずしも常習的な脱税意図による犯行とは認め難いこと、被告人佐藤も現在では自己の軽率な行為を反省しており、二度とかかる不祥事を起こさない旨述べ、修正申告を行って、それに伴う諸税(法人税関係分)も完納していること、その他被告人の経歴、家族関係等諸般の事情を考慮し、主文掲記の刑を量定した。

(裁判官 原田敏章)

別紙(一)

修正損益計算書

有限会社吾妻商会

自 昭和54年3月1日

至 昭和55年2月29日

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別紙(二)

税額計算書

有限会社吾妻商会

〈省略〉

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